2019年の秋、ぼくは現在のメイン自転車『JUNCHAN号』の組立てに勤しんでいた。
組立ても終盤に差し掛かり、欧州から取り寄せたDTswissのホイールを開梱する。中身を検品したところ、何やらリム内側に謎のテープが封入されていた。当初は「リムテープかしら?」と思ったのだけれど、どうもぼくの知っているリムテープとは質感も厚みも違う。
よくわからなかったので、この謎のテープについてお店に質問してみることにした。
まずは「DTswiss ホイール」で検索しヒットしたA店。
「かくかくしかじかこういうわけで、この謎のテープについて教えていただけませんでしょうか。」と。
ほどなくして返信があった。
「当店でのご購入履歴がないようです。当店で販売したものでない場合はご回答いたしかねます。」
……うーむ。
予め断っておくと、この対応を非難するつもりなど毛頭ない。微塵も、1オングストロームほどもない。ただ、なんというか、「センスねえな。」と思っただけで。
質問に対してどのような対応をとるのも店側の自由だ。しかし、その対応によって消費者側がどのような印象を受けるかもまた自由なわけで。はたしてこのメールを受け取った相手はどう感じるだろうか。
「くそー!このお店で買わなかったから質問に答えてもらえなかった!次回はこのお店で買お〜っと(^-^)」
……ってなるわけねえだろこのお馬鹿さんっ!
むしろ「なんだ、不親切だなあ。」とつぶやいてその店のウェブサイトを閉じてしまうだろう。これは店にとって大きな損失だ。そもそも、この店はどのように「購入履歴」の確認をしたのか。送られてきたメールアドレスのみ?これだけで「購入履歴がない」と言ってしまうのも危険だ。
もしぼくが自転車関連の事業を展開していたら、もしぼくが店側の人間だったらこう答える。
「お問い合わせありがとうございます。ご質問のテープは(うんたらかんたら)という用途のためにリムに予め装着されているものです。今後とも弊店をよろしくお願いいたします。」
購入者であろうがそうでなかろうが、ちゃんと教えてあげちゃう。
これは何も親切心によるものではなく、この質問者を将来的な顧客と捉えてのことだ。懇切丁寧な回答によって信頼を得て、次回の購買に繋げたいという意図がある。
もし件のA店のように「どうしても購入者にしか教えたくない」という方針でいくとしても、いきなり「おまえ弊店で買ってないだろ」ではなく、
「恐れ入りますが、ご購入時のメールに記載されております『ご注文番号』をお伝えいただけますでしょうか。」
と問うて、それに対して「おたくのお店では買ってないよ」という返信があったら、
「アフターサービスについては弊店でご購入いただいたお客様に限らせていただいております。誠に申し訳ございませんがご理解の程よろしくお願い申し上げます。」
これでいいような気がする。
A店の初っ端のメールは、近視眼的というか短絡的というか、短期的な目先の利益しか見えていないような感がある。要は、潜在的な顧客を自ら手放しているように思うのだよなあ。
で、この対応に驚愕脱糞したぼくは、他のお店にも当たってみることにした。
次に問い合わせたのが、DTswissの公式ウェブサイトに「日本におけるサービスセンター」として掲載されていた兵庫県神戸市にある『オキドキライフスタイル』というお店。ここに同様の質問をした、その回答がこれ。
「早速ですがご質問の件はリム内側の『DTSWISS』ロゴの入った粘着テープのことでよろしいでしょうか。これはチューブレスで使用する際に『シール(気密)』として機能するテープです。チューブレスとしてご使用の際には付属の『チューブレスバルブ』を装着してご使用ください。同時に、チューブを使う際にもスポークホールをふさぐ(いわゆる)『リムテープ』(リムフラップ)としての機能も有しておりますのでそのままチューブを入れてご使用いただけます。粘着性があり、リム内でずれることもありませんので、従来のリムテープよりも信頼性が高まり、また多くの場合ほとんどのリムテープよりも軽量です。」
親切だ。すこぶる親切だ。たったこれだけのやりとりでぼくはこの『オキドキライフスタイル』というお店のファンになってしまったし、次にホイールを購入する際のファーストチョイスにしようと思っている。
このように、たった一通のメールによって、潜在的な顧客を逃したり、或いは獲得したりしちゃうわけだ。そういったところから、そいつの『商売のセンス』的なものをうかがい知ることができるように思う。
……まあ、なんというか、だからどうというわけではないけれど、ちょっと思い出した話よ。それだけよ。