メゾン・ド・ふわふわ

「かねもうけブログ」ではありません。

はてなブログ、note、しずかなインターネット……利用してみて感じたこと。

 文章を書きたい。日々の思考を記録し、誰かに届けたい。そう思い立った時、まず最初に「どこで書くか」という問題にぶち当たる。

 現代のインターネットには、そうした個人がテキストを発信するためのプラットフォームが無数に存在している。一見すると選択肢は豊富で、誰もが自身に最適な場所を選べるように思える。

 しかし、いざ真剣に腰を据えて書こうとすると、どの場所も一長一短、いや、一長九短くらいにくせ者ばかりであることに気づかされる。あっちを立てればこっちが立たず。右を向けば商業主義、左を向けば過疎の荒野。一体、ぼくはどこに文章を置けば、ストレスなく健やかに発信を続けられるのだろうか。

 

 まず候補に挙がるのが、約7年間にわたってぼくが書き続けている場でもある「はてなブログ」だ。ぼくは一切参加していないが、場自体にSNS的な機能を内包しているため、適切に立ち回れば書き始めの時期でも一定のアクセスが見込める利点はある。

 しかし、管理画面にログインするたびに、激しい違和感が襲ってくる。ダッシュボードを開くと強制的に視界に飛び込んでくる、あの「ランキング」や「注目のブログ」の羅列だ。

 世間には、こうしたランキングについて「ブロガー」なる人々による互助会によって回されているのではと訝しがる声もあるようだ。ランキングの仕組みを勘案すると、そう感じる人らの気持ちもわからなくはない。

 とは言え、ぼくとしてはその真偽には興味がない。ブログで金を稼ぎたい、承認欲求を満たしたいなど微塵も思わないからだ。それよりも、自身にとって不要な情報(ランキング)が常に表示されている状況そのものに、どうにも居心地の悪さを覚える。

 

 ならば、よりモダンで洗練されたイメージのある「note」はどうだろうか。クリエイターのための街、といったクリーンな世界観を打ち出しているが、その実態はあまりにもコマーシャリズム(商業主義)がキツすぎて胸やけしそうな場所だった。

 トップページを飾るのは、企業タイアップのコンテスト企画とそれに迎合した提灯記事ばかりだ。プラットフォーム自体が企業におもねりすぎており、いかにバズるか(この表現は大嫌いだが伝わりやすさ優先のためやむなく使う)、いかにマネタイズするかという資本主義の論理が剥き出しになっている。

 ただ静かに自分の言葉を紡ぎたいだけの人間にとって、noteの空気感はあまりにも騒がしく、息苦しい。創造性をを応援するというポーズの裏で、ユーザーを養分として消費しようとする企業の思惑が透けて見えてしまうのだ。

 

 そんな商業主義の喧騒に疲れ果てた人々の避難所として登場したのが「しずかなインターネット」である。ここにはランキングもなければ、いいねの数も表示されない。他人の目を気にせず、ただ文字を書くことだけに集中できる素晴らしい設計だ。

 コンセプトとしては完璧に見える。しかし、致命的な弱点がある。それは、あまりにも検索に弱すぎることだ。SEO(というのかな?)を意識しない構造ゆえに、Googleなどの検索結果にはほとんど引っかからない。他者との繋がりを断ち切った結果、そこは文字通りの「誰もやってこない孤島」と化してしまった。

 日記帳として自己完結するならこれ以上ない場所だが、誰かに読まれたい、自分の思考を世界の誰かと共有したいというわずかな願いすら、この静寂は消し去ってしまう。これでは暗闇の中で一人、誰にともなくつぶやいているようなものだ。

 

 こうして主要な選択肢を消去していくと、最もマシだと思えてくるのが、Googleが提供する「Blogger」である。派手な広告やランキングに邪魔されることなく、シンプルにテキストと向き合える。無料でありながら自由度も比較的高い。

 しかし、Googleのサービスであるにも関わらず、他社サービスと比較するとお世辞にも検索に強いとは言えない。初期状態ではやはり誰も来ない日々が続くだろう。

 とは言え、少なくとも「しずかなインターネット」の完全なる断絶に比べれば、世界の検索インフラと地続きである分、まだ未来の来訪者に期待が持てる。過度なノイズがなく、最低限の窓口だけが開いているという意味で、消去法における最有力候補になってしまうのが今のブログ界隈の悲しい現状だ。

 

 もちろん、そんな妥協の数々をすべて吹き飛ばす最高にして究極の答えは、最初から分かっている。「自前サーバー+WordPress」の組み合わせだ。

 自身でレンタルサーバーを契約し、独自ドメインを取得して、WordPressをインストールする。そこには、はてなブログのような強制表示ランキングもなければ、noteのような商業主義もない。しずかなインターネットのような孤島でもない、自分だけのオリジナルな執筆空間をゼロから構築できる。デザインも、導線も、すべてが自分のコントロール下にある。これこそが、インターネットにおける真の「我が家」であり、表現の自由の理想郷だ。

 しかし、最高だと分かっていても、そこに到達するためには、毎月のサーバー代という維持コストと、セキュリティ管理や謎の何か(ぼくもよくわかっていない)といった面倒な技術的ハードルを乗り越えなければならない。

 

 「ただ、文章を書きたいだけなのに……」、そのシンプルな願いを叶えるために、なぜここまで悩み迷わなければならないのだろうか。今日もぼくは、ノイズだらけのプラットフォームと、誰もいない孤島、そして理想の我が家の間を彷徨い続けている。

 

 

おわり

#人生卒業キャンペーン

 本作は完全なフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。また、特定の行為を助長・推奨する意図は一切なく、現代のSNS社会を風刺した創作小説です。現実と虚構を混同してしまいそうな人は、読まずにブラウザを閉じるなり戻るなりしてください。

 

 こどもはよんではいけません!

 

 

 大手広告代理店「電報堂」の敏腕プランナー、橋田多愚夫は笑いが止まらなかった。

 本社ビル最上階のオフィス、彼の目の前の大型モニターには日本中のSNSのトレンドワードと、主要テレビ局の視聴率データがリアルタイムで可視化されている。

 「見ろよ。現代の一般大衆、通称『B層』の行動は俺らの指先一つでどうにでもなる」

 橋田がスマートフォンの画面をタップすると、SNS上に『#タピオカの次はこれ!有機栽培の泥水ジュース』というハッシュタグが躍り出た。

 テレビの情報番組が一斉に「泥水ジュースに大行列!」と特番を組み、インフルエンサーたちが「大地の味がしてエモい」と自撮り写真をアップする。

 翌朝には、泥水を汲むために行列を作る大衆の姿があった。誰も「なぜ泥水を飲んでいるのか」など考えもしない。テレビや雑誌、そしてSNSのタイムラインこそが彼らの世界のすべてなのだ。

 大衆はすでに、自ら思考することを放棄していた。アルゴリズムが提示する「おすすめ」を消費し、広告代理店が作った「ブーム」に飛びつく。橋田たちにとって、この国の人間は飼育箱の中の蟻となんら変わらなかった。

 

 「何?次のクライアントは葬儀屋?一体、大衆に何を買わせればいいんだ?」

 橋田は書類に目を通しながら椅子にもたれかかり、思案した。

 大衆が求めているのはモノではない。欲しがっているのは、「他の皆もやっている」という安心感と一体感だ。それさえ提供してやれば、煽るのは必ずしもモノの購買である必要はない。

 「……俺にできないことはない」

 橋田の目が怪しく光った。

 「究極のミニマリズム、消費の最終形を仕掛けてやろう!」

 企画書は一晩で書き上げられた。

 キャンペーンタイトルは『Last Life Hack 〜人生卒業〜』。

 

 翌月曜日、仕込みは完璧だった。まず、若者に絶大な影響力を持つカリスマインフルエンサーが、美しい青空の写真を背景に、こだわりぬいたフォントを使ってこう投稿した。

 『色々考えたんだけど 生きるのってコスパ悪くない? だから私 最先端のライフスタイルに移行します! 明日 みんなより一足お先に卒業しちゃいます! #人生卒業』

 その翌日、縦画面に映えるデザインの「遺書(おしゃポエム)」がWebで公開され、彼女は本当に人生を「卒業」した。

 テレビのワイドショーが即座にこれに飛びついた。

 「若者の間で今、全く新しい生き方である『人生卒業』が大流行しています!」

 コメンテーターが、もっともらしい顔で解説する。

 「これは現代の閉塞感に対する、非常にクリエイティブで前衛的な自己表現ですね。私も正直、トレンドに乗り遅れたくないなと感じます」

 

 『人生卒業が大ブーム!今すぐ卒業しよう!』

 街頭の巨大ビジョン、電車の吊り広告、YouTubeの広告、すべてがその文句で埋め尽くされた。

 『うちのクラス もう半分以上卒業したよ』

 『トレンドに取り残されるのだけは絶対に嫌だ』

 『早く卒業しないとフォロワーが減っちゃう』

 SNSは焦燥感に駆られた大衆の言葉で溢れかえった。

 思考停止した人々にとって、「卒業」はもはや命を絶つ苦痛の行為ではなく、「今シーズンの新作フラペチーノ」を買うのと同義のトレンドだった。

 テレビが「今すぐ卒業するのがトレンド」と言っているから。

 SNSで「#人生卒業」がトレンド1位だから。

 乗り遅れたら、村八分にされて恥をかくから。

 誰も疑わなかった。

 

 そして、金曜日。

 電報堂の最上階オフィス。橋田は一人、静まり返った街を見下ろしていた。

 水道も電気も止まりかけている。テレビの画面は、自動送信された「ブーム到来!」のテロップを虚しく流し続けている。

 モニターに映る日本の人口数は、ついに「1」を示していた。橋田だけだ。クライアントである葬儀屋すら、もういない。

 「 俺の作ったトレンドが、ついに市場を100%支配したぞ!」

 橋田は狂ったように笑った。完璧な仕事だった。一億人以上の人間を、ハッシュタグ一つでコントロールしてみせたのだ。これ以上のインフルエンサーがこの世にいるだろうか。

 しかし、ふと我に返る。

 静寂。あまりにも静かだった。

 成果を褒めてくれる上司も、次の案件を持ってくる部下も、泥水を飲む大衆も、もう誰もいない。

 手元のスマートフォンが微かに震えた。自動アルゴリズムが生成した、最後のプッシュ通知が表示される。

 『今すぐ卒業しないと ダサい奴として一生ネットで煽られちゃう! #人生卒業』

 橋田は画面を凝視した。彼の脳裏に、これまで大衆に植え付けてきたロジックがブーメランのように突き刺さる。

 (俺がここで卒業しなかったら、俺は『トレンドに乗れなかったダサい奴』になるんじゃないか? 流行遅れの一番カッコ悪い人間として歴史に……いや、もはや歴史を記録する奴すらいないが、とにかく俺だけが『留年』するのはエモくない……!)

 長年、広告とトレンドの海に浸かり続け、大衆の脳を操ってきた橋田だったが、皮肉なことに彼自身の脳もまた自らが作り出したシステムに完全に操られていたのだ。

 「……そうだな。トレンドには、乗らなきゃな」

 橋田は虚ろな目で呟くと、操られるように窓辺へと歩き出した。

 窓の外では、無人の街に設置された巨大スクリーンが、今日も変わらぬ鮮やかなネオンカラーで、誰もいない世界に向けてメッセージを大音量で流し続けていた。

 

 『ブーム到来! 日本人全員が体験した最高のライフハック あなたも今すぐ体験しよう! #人生卒業』

 

 

おわり