ある日、珍しくテレビジョンを観ていたら(『午後のロードショー』だったかな?)、インパクトのあるCMに遭遇した。
一人の男性がエレベーターに乗っていて、そこに突然大勢の女性が乗り込んでくる。彼女らはおもむろに男性のにおいを嗅ぎ、「臭えなあ」といった表情をする。
恐らく消臭剤か何かのCM。
これを性別を逆にしてみたらどうだろう。
やはりクレームが殺到するのだろうか。
女性も人によってはオイニーがツイキーだけれど、やはり逆バージョンは許されないのだろうな。
……
こんなことを思い出した。
私は以前、高等教育機関に勤務していた。
同じ部屋に、派遣で来ていた40代の独身女性がいた。彼女はとてもプライドが高く、「いかに自分がキラキラした日々を送っているか」の演出に余念のない人だった。
「連休にヨーロッパに行ってきました」とのメモを付け、日本でも入手可能なお菓子を、ひとかけらずつ、全ての教職員に配っていた。
「高貴な生まれ」を自称していたが、常にバス通勤だった。
そうした演出は周囲の人々に対する嗅覚面へのアピールにおいても同様であり、毎日胸やけするような香水の臭いを放っていた。
上司が「何だか良いにおいですねえ。学校じゃないみたいだ(笑)」と極限まで気を遣った注意を試みた際も、彼女は「○○のなんちゃらというパフュームですのよ」と自慢げに語っていた。
今ならわかる。彼女の寂しさが。
自分より遥かに若く、本当にキラキラしていた女子教職員や女子学生たちに囲まれて、そうでもしないと自尊心を保っていられなかったのだろう。
もしかしたら、「派遣」という身分に劣等感を覚え、「あたくしはお金には困っておりませんの。お金はあるけれど、社会貢献のために少しお仕事させていただいておりますのよ」といったストーリーを設定していたのかもしれない。
人は、寂しいからといって、寂しい顔をしているとは限らない。
精一杯虚勢を張って、突っ張って生きている人もいるのだ。
これに気付いていれば、あの頃、彼女をもっとあたたかく見守れたかもしれない。
……でも、あのオイニーはやはり勘弁だ。
まさか一つのCMから、こんなに昔のことを思い出すとは思わなかったよ。
~つづく~